会長挨拶
学術集会開催に向けて
会長 山口 賢一
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center
第34回日本小児リウマチ学会総会・学術集会を2025年10月10日から12日の3日間、千葉市の幕張メッセ国際会議場で開催させていただきます。1991年に日本小児リウマチ研究会としてはじまり、関わられた先生方の熱意と努力の上に発展・受け継がれてきた本学会の学術集会を担当させていただくことを、大変光栄に存じます。
全身性の自己免疫疾患および自己炎症性疾患を対象とするリウマチ分野は、近年の分子標的薬をはじめとする新規治療薬の開発と臨床応用、診療ガイドラインの整備などを通じた情報の普及の結果、疾患予後が大きく改善した分野のひとつでしょう。その恩恵は言うまでもなく小児リウマチ診療にももたらされ、多くの患者さんにとって、たとえ発症したとしても適切な加療を受けることにより「自分らしい人生を歩むことが可能な」状況を生みました。医学研究はその歩みを緩める様子はなく、今後も詳細な病態の理解がさらに進み、難治例に対する新たな治療アプローチも可能となる近未来像がイメージされます。
身体的にも精神的にも成長過程にある小児に対して必要な治療を行うためには、科学的アプローチのほかにも大切なことがあります。治療を受ける患児はもちろんですが、わが子が「難病」と診断され戸惑うご両親・ご家族に寄り添い、通院という名のマラソンを完走することも、小児リウマチ診療に携わる医療従事者の役割でしょう。私の好きな物語 サン=テグジュペリ著「星の王子さま」に“Apprivoiser(アプリヴォワゼ)”というキーワードがあります。しっくりする日本語訳は無いのですが、「心と心をきずなで結ぶ」あるいは「心を通わせる」に近い意味をもちます。本作のなかで、王子さまとキツネが時間をかけて作り上げたように、担当する患児やご家族との間にアプリヴォワゼを築いて行きたいものです。
2024年夏は昨夏に続く記録的な猛暑となり気候変動が現実味を帯びる中、世界各地より武力衝突のニュースが届き、経済指標も乱高下気味と時代は転換期の様相です。本学会が開催される来年は嵐の最中かも知れません。こんな時こそ信じる心を羅針盤に、病と闘う子どもたちと小児リウマチの船に同乗し七つの海へと漕ぎ出すことこそ、明るい未来につながる航路と考え、テーマは「Now the time sail to the new world
帆を上げよ」と致しました。
最後に、本学会にご参加いただいた学会員の皆様のあいだにアプリヴォアゼが芽生えるお手伝いをさせていただけたとすれば、望外の喜びです。